厳冬期白山オートルート(一里野から石徹白)21時間         戻る


メンバー 僕、パク


2019年2月9日

一里野スキー場23:45~ゲレンデトップ0:35~シカリ場2:26~奥長倉避難小屋4:09~21~天池6:00~四塚山8:06~白山山頂10:09~
31~滑降~室堂10:41~南竜11:00~赤谷11:09~登り返し~油坂の頭12:11~別山13:55~14:07~滑降~三ノ峰避難小屋15:15~
二ノ峰16:17~一ノ峰16:46~銚子ヶ峰17:45~神鳩ノ宮避難小屋18:32~石徹白登山口19:34~中居神社21:00



人生はやる時にやらねばならない。指をくわえていても何も始まらない。厳冬期白山加賀禅定道単独ワンデイの記録を作ってから早4年が経ち、今年はYSHRさんが加賀禅から楽々新道を周回するビッグな記録を作った。あの時は感動と勇気をもらったけど何だか心の底に引っ掛かる物があった。自分も頑張って記録を作ろうと決心した。故郷の山白山、特に厳冬期の記録は特別な物。ビッグな記録を見て羨ましがるだけではダメだ、あの記録と同じようにビッグな山行をしよう、誰もやっていない全く記録のない事をやろう。

それはもう一里野から石徹白に抜ける白山を南北に縦走するオートルートしかない。厳冬期にはいったい何時間かかるのだろうか全く見当がつかない、もしかしたら24時間を超えるかもしれない。いろんな事をイメージし最悪な事も考え決戦の日は土曜と決めた。土曜休みの友の会で24時間戦えるのはパクかサブか。パクを誘ったら一発OKだったのでメンバーは良し、後は決戦の日を決めるだけだった。
週間天気を見てもいまいちの日ばかり、厳冬期の北陸では当たり前の事だからしょうがない。2月9日しかない、午後から天気が崩れる予報だがなんとか持ってくれないかと期待した。

睡眠時間は2時間、気合が入れば寝れない。21時半に下山口となる岐阜県石徹白の中居神社にパクを迎えに行く。僕の車にパクを乗せて2時間の深夜ドライブ、23時半に一里野スキー場に着きさっさと支度をして23時45分にスタートした。空は快晴、気合い入れまくりでスキー場を登っていく。カチカチビビンバ斜面なので早くもクトーを付けて登り50分でゲレンデトップに着いた。そのまま休憩せずに尾根に入っていく。

尾根もカチカチでラッセルなし、良い条件かと期待したがずっとクトーを付けなければならないし下りもクトーを付けたまま降りないとスリップして滑落してしまうから結構苦労した。しかしながらラッセルするより時間は早く4時過ぎに奥長倉避難小屋に到着、中に入って休憩した。まだ夜明けまで2時間半ほどある、暗闇の美女坂にパクは不安を抱いていたが行くしかない。僕が先頭で行く、最初の核心はやっぱり危険だった。途中でパクはアイゼンを履いてツボで登ってきた、僕は何とかスキーで登り上げ暗闇の台地に着いた。

台地に上がると加賀平野の夜景がメチャきれい、いいものが見れたが暗いので百四丈滝は見れない。パクは厳冬期の滝を見たことがないので残念がっていた。台地は風が強く暗闇なので気が滅入る、早く明るくならないかと時計ばかり見ていた。天池でも真っ暗、油池辺りでやっと明るくなってきた。空は一面雲に覆われていた、予報よりチョット早い。長坂に取付くころに日の出時刻を迎えたが太陽の姿を見る事はなかった。登り始めてしばらくで不覚にもスリップして滑落した、カチカチなので止まらない、30m程滑り落ち鼻と唇を切傷し出血、鼻血も出て血だらけになった。

慎重に行こう、四塚山のピークに行かずに七倉の辻を目指した。風は強くなる一方だが視界があるからまだマシだ。先週S君がルートを間違えた所を検証してみたが視界があれば迷うことはなかっただろう。逆に視界がないのによくあんなところをトラバースしたのが怖い。七倉の辻から御手水鉢のコルまで下降がある、シールを剝がせばあっという間に行けるけど今日は何度も登り返しがあるので山頂までシールを剝がさず粘着力を維持する作戦にした。アイゼンを履いて下降しそのまま大汝のトラバースラインまで登り上げスキーに履き替えた。

果てしなく続くカチカチ斜面、スキーでは限界を感じ担いでアイゼン歩行に切り替えた。ザクザクと進んでいき山頂が見える所まで来たが全く見えない、早くも地獄ですか。厳冬期に地獄のピークに行くなんて今までありえないが行くしかない。大汝を巻き終えると風が凄い、もう地獄一丁目決定ですな。
視界がないから慎重に氷を蹴りこんで登る、GPSを見て御宝庫の岩峰を避けてルートを取る。そして着きました、2月の地獄一丁目の白山は初めてです。なにも見えないが記念写真を撮って奥社に逃げ込んだ。ここで念入りにお参りをした、無事に帰れますように。

よく考えると2週連続で2月の白山に来る人は僕とパクだけだな。滑降準備をしたら後半戦の始まり、ホワイトアウトに暴風、逃げよう、パク絶対に離れるな。カチカチ斜面なので転倒も許されない。通いなれた白山は視界が無くてもGPSと感で室堂まで行ける。室堂に降りると突然奥社が現れた、幾分風の弱まり先を急ぐ、弥陀ヶ原に下降途中で視界が開けた。ラッキーです、もし視界がないと大変だっただろう。エコーライン尾根を使って南竜まで滑降です。厳冬期に南竜に行った人はいないでしょう、この先は未知のルートだ。

南竜湿原は雪の台地、素晴らしい。楽しみにしていたアイスモンスターは消滅していた、先週からの温暖で尾根のモンスターも消滅していた。南竜からツボでちょっと登り返し赤谷まで滑りこむ。ここでやっと休憩して標高差400m程の別山に行く。なにが出てくるか、核心は大屏風の雪庇だろう。
油坂の急登を登っていく、振り返ると山荘と雪原が眼下に見えた。そして弥陀ヶ原には雲の中になっていた。さて核心は苦労する、樹林がある所はマシだが無い所はどこが雪庇だろう、反対側も崖なので慎重に通過した。そして徐々に視界が無くなり風も凄くなってきた。

大屏風を過ぎて安心した矢先に悪天に捕まってしまった。体が飛ばされそう、ホワイトアウトになりルート取りがムズイ。狭い尾根は落ちたらおしまいだ。風で飛ばされ転倒したがウィペットで停止、お参りのご利益でしょう。山頂部は久しぶりの1丁目1番地ですか、写真撮って奥社に逃げ込み滑降準備をした。早く逃げよう、今日は地獄の山行だ。滑降しようにも風に戻され進めない、ポールで漕いでやっと斜面に取付き滑る。視界が全くないので時間がかかるがGPS様のおかげで三ノ峰のコルまで滑り込んだ。どんどん天気が悪くなっているので高度を下げても状況は変わらなかった。

三ノ峰のピークから避難小屋に行き中で休憩した。別山から岐阜方面は降雪がありフカフカ、この風ではシールの貼り直しは困難なのでシールのまま滑って登り返す作戦にした。日の入り時間も迫っているから急ごう。二ノ峰の鞍部まで滑るが氷化斜面が出てきてスリップしまくり、このころから風が半端ない。別山山頂と同じではないか。パクは板を担いでアイゼン、僕は何とかコルまで滑った。高度を下げても凄い風。シールを剥いで登りはツボ、下りはスキーで滑る作戦にした。この風はヤバいレベル、行動不能の一歩手前だ。しかし風が強くなるほど燃える僕、富士山の爆風に比べればまだ大丈夫だが突風で何度もカッパのフードが脱げた。生きて帰ろう。

一ノ峰を越えたら風が弱くなった、暗闇も迫っている、一気に銚子ヶ峰に行き滑降しよう。しかし甘くはなかった。銚子ヶ峰に着くころは地獄の風になっていた、そして暗闇になった。想定していた最悪のパターンです。ヘッデン付けても視界がない、暗闇ホワイトアウトは初めての経験だった。
ここも絶対に離れてはいけない、GPS片手に横滑りで降りていく。絶対に登山道のルートを外してはならない、手探りならず足探り…、何も見えないからGPSだけを見て横滑りした。

途中でパクが取り乱したか、大声を上げていた。一瞬僕の姿が見えなくなり不安に襲われたそう。絶対に生きて帰ろう、もう樹林帯まで安全地帯はない地獄だ。1時間近くかかり神鳩小屋に着いた。中に入りたかったが入れない、何のための避難小屋なのか。仕方なく外で電池の交換と栄養補給をした。

この先は樹林帯なので風が収まったが暗闇地獄は変わりない、複雑な地形なのでここでもGPSは離せない。木にぶつかったり転倒したり、滑落しそうにもなったが何とか高度を下げていく。そしてやっと登山口に降り立った、生きて帰れた。喜びの乾杯だ、担いできたコーラーを2人で分け合い最後の仕事だ。新雪は15センチほどか、ラッセルして林道を行く。
1時間半の林道漕ぎは試練だったが地獄の中の行動に比べれば試練と言えない、でも辛かった。さあゴールだ、一里野から加賀禅を経て白山、別山のピークを踏んで石徹白へ21時間15分、距離にして45km。厳冬期白山オートルートの達成です、やりました。

もう絶対に2度目はない。完全燃焼でした。

暗闇から解放。

四塚山見えた。

鉛色の空。

長坂を行く。

行くしかない。

どこまでもカチカチ斜面。

記念写真。

山頂に登り上げる。

地獄です。

前半終了。

念入りにお参り。

もちろん山頂から滑る。

弥陀ヶ原は視界があった。

スプレー。

いい斜面でした。

厳冬期の南竜山荘。

別山に行く。

核心部が続く。

悪天に捕まった。

1丁目1番地。

三ノ峰避難小屋に逃げ込んだ。

高度を下げても地獄の中。

ナイター滑降の準備。

生きて下山できた。

パクは寝ていた。